愛の囁きを[短篇]
ガチャ。
1分もしない内に玄関の開く音が聞こえた。
「もう帰ってきたの?」
いつもなら長話をして20分は帰ってこない母が珍しい。
きっと誰もいなかったのだろう。
だから郵便受けか何かに入れて戻って来たに違いない。
勝手に解釈して、
私は始まったドラマの再放送に意識を向けた。
ガチャ。
開くリビングのドア。
私は振り返らず、テレビを見つめる。
「早かったねー、留守だった?」
「…。」
返事がないのを不審に思い、
ゆっくりとドアの方を振り返った。
「…っ!」
その瞬間、呼吸の仕方を忘れたかのような錯覚に陥ってしまった。
お母さんだと思っていた。
だから振り返ったのに。
なんでアンタがここにいるのよ…。
「何で…」
「…何でお前が来ねぇの?」
は?
何言ってるの?
ズカズカと私の前へと足を進める壱。