pierce,prince



そうだよ───‥
葵の、言う通りだよ。


あの、雨の日のことから
あたしは葵のことを
忘れようとしたんだよ。

忘れるため、毎日の日課と化した
葵の帰りを待つのをやめたの。

カーテンを、閉めるようにしたの


いま思えば、
あたしが葵の帰りを待つ必要など
どこにもなかった。

頼まれたワケじゃない。
勝手にしてただけ。

自分の、ために。




『あたしが葵の帰り待ってるの…
葵、知ってたの…?』



葵は、小さく頷いた。



「…知ってた。…ほら。」


葵が指した窓の外には…

空を見るためだけだとばかり
思っていたのに…



「海の部屋。
俺の部屋からよく見えるんだ。」



あたしがばかだった。

あたしの部屋から葵の部屋が
見えるのならば…
逆もそうだとゆうことを
考えていなかった。



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