女の隙間、男の作為
この話を目の前の結城に打ち明けるわけにもいかず、かといって頭から追い出すこともできずに、不安と葛藤を持て余しているというわけだ。
「なにもない。たぶん誰かさんがコキ使うから疲れてるだけ」
温くなった缶からは手を離して、額を男の肩に乗せる。
「御子柴に説教しておくよ」
「あんたのことだってわかってて言ってるでしょ。御子柴が不憫だ」
「俺より御子柴の肩持つわけ」
“妬けるなぁ”
嘘吐き。
そう思いながらも唇に落ちてくる温みを甘受してしまうのだ。
これは慣れなのか、情なのか、他の得体の知れぬ何かなのか。
結城に触れられるたびに安心を覚えながらも、名前のない関係性に自責の感情が沸き起こる。
あたしはいったい何をしているのだろう。
(いや、ナニをってアレですけど。明らかに)
自分で選んだ道だったのは確かだけれど、進めば進むほど出口から遠ざかる樹海のような場所に足を踏み入れてしまったような気がしてならない。
そしてそれを仮にこの男に伝えたならば、光の射さない森を喜んで死ぬまで一緒に彷徨い続けると言い出しかねない。
だから、言えない。
何も、言えない。
「あんた、楽しい?」
あたしとこんな風に時間を共有して。
肌に触れて、交わって、不正解の答えに至ることを、あんたは楽しんでるの?
「もっと早くこうすればよかったと思う程度に嬉しいよ」
絶対に、泣かない。
泣いちゃいけない。
楽しいを嬉しいに置き換えられたら、それが肯定なのかどうかもわからない。
「それならよかった」
大嘘だ。
何もよくない。
この男と離れるかもしれない。
もう一緒に仕事はできないかもしれない。
死ぬほどハードでそれを帳消しにするくらいの達成感を得られる仕事ができなくなるかもしれないのだ。
その事実はシンプルにあたしのさして大きくない胸を抉る。