女の隙間、男の作為


『それは絶対にないって紘太さんのお墨付きだったから。
カノはそんな胡散臭い男に靡くような女じゃないって』


怒 り 心 頭 !


『あ゛ー!!!なんだその保護者面!アイツはあたしを捨てた男なのに!なんで今更こんな嫌がらせをされなくちゃいけないのよ!』

男が昔の女をいつまでも自分のモノだと思いたがるって本当だったんだ。
鬱陶しい。この上なく鬱陶しいし腹立たしい。

『結城がいるからカノを置いていけたみたいだけどね』

『あたしの気持ちはまるごと無視か!
そもそもやっぱり置いていったのか!』

もう今更どうでもいい。
どうでもいいけれどあの男が当時既に数年後の現在を見据えていたのだとしたら、やっぱり口惜しいと思ってしまう。

今の状況が数年前から決まっていたなんて、絶対に信じたくない。


ごめん。

立ち上がった松岡が再度あたしに頭を下げた。

謝って欲しかったのかと問われればそれは違うけれど、謝ることもできない男なら今後関わりは薄くなるとはいえ口も利きたくなくなっただろう。

『松岡。とりあえず一発殴ってもいい?』

『マジか。まぁいいけど』

どーぞ、と目を閉じた松岡はやっぱり嫌味なほど整った顔をしている。
この顔に思い切り拳をあげられるなんてある意味レアチャンスだろう。

え?
拳?

えぇもちろん。
平手なんかじゃ済ませませんよ。

ゴツッ

地味な音だったけれど78%くらいはすっきりした。
(ついでに地味に自分の右手も痛い)

『それから結城には間違ってもゲロしないで。それくらいじゃ済まないよ』

頬を抑える松岡に最後の忠告。

『やっぱりカノはあいつに惚れてるんだ』

『あんたに関係ないでしょ』

『フロリダ転勤、がんばれよ』

このタイミングでそれかよ!と思ったけれど同僚の激励を無碍にするわけにもいかない。
二回首を縦に振ってそれに応える。

『あぁそれから紘太さんに伝言あるなら聞くけど?』

これには思い切り中指を突き立ててやった。これで十分伝わるだろう。
(下品だけど仕方ない。これがいちばんしっくりくる)

背後で松岡の爆笑する声が聞こえたけれど、立ち止まることなく会議室を後にした。

彼の現在の状況を聞かなかったのがあたしのギリギリのプライドだ。
(どうせそこそこいい女と結婚してさぞ可愛い子どものひとりやふたりくらいいるのだろう)


この半年フロアを騒がせた“カノ劇場”のオチがコレだとはさぞ観客もがっかりだろう。


(ちなみに瑞帆は爆笑していた。それこそお腹の子に悪影響なんじゃないかと心配になるくらいの笑いっぷりでした)

< 126 / 146 >

この作品をシェア

pagetop