女の隙間、男の作為
もちろん来月から自分が抜けたあのオフィスがどうなるのか心配といえば心配だ。
御子柴がまた赤(字)の処理をさせないか。
水野くんが失注しないか。
結城が無茶振りして後任の後輩のアシスタントを過労死させないか。
部長の書類作りの手伝いは誰がやる?
契約台帳の管理は大丈夫?
社内監査は乗り切れる?
不安も懸念も尽きないけれど、そういえば先輩が産休に入るときも同じことを言っていた。
『カノ。あんたひとりでちゃんとやれる?』
会社なんてそうやってなんとか回っていくものだ。
だからきっと大丈夫。
「カノー。で、いいかげん俺と結婚する気になった?」
「シツコイよ。結婚はしません。
そんなにしたければ他の子とすればいいじゃないの」
「カノちゃん。俺達もうすぐ遠距離恋愛なのに冷たくないですか」
「寒いこと言わないでよ。せっかくの酒が不味くなる」
「カノが主役なのはわかってるけど、二軒目で抜けよ」
「無理でしょー部長に殺されるよ?」
「いいからいいから。俺達の愛の邪魔をするなって言えば大丈夫大丈夫」
「部長の相手のほうがマシ…」
「カーノー!」
バカみたいな会話は昔から変わらない。
でもその後の時間の過ごし方は大きく変わった。
たぶんこのままコイツの部屋コースだろう。
(そもそもあたしの部屋はダンボールだらけで居心地最悪なのだ)
結城の部屋で二人でビールを飲んで、またプロポーズされたり断ったりキスしたり抱き合ったり、また断ったりするのだろう。
その煩わしさは幸せに少しだけ似ている。