女の隙間、男の作為
クローゼットを開けて見事に片づいていない乱雑な衣装ケースをガサガサと漁って自分の記憶が正しかったことを見つけた。

「ハイ、コレでも着て帰って」

松岡に投げて寄越したのは男物のチェックのネルシャツだった。
たぶん4年くらい前の代物だけどサイズは問題ないはずだし、コーディネート的にはいかがなものかと思うけれど少なくとも職質される可能性は潰れたわけだから、状況は好転したはず。

「まさか元彼の忘れ物とか言う?」

「だったらどうなの」

「好きな女の子に元彼の服着せられるほどショックなことはないからとりあえず泣くかも」

「朝っぱらからそんな営業トークいらないから」

相手にせずに自分の着替えを見繕う。
カーゴパンツと麻のカットソーでいいか。
どうせ掃除して買出しいくだけの週末だし。

「二日酔いの状態で営業トークするほど俺も若くないよ」

「あぁそうなの?」

しかし頭痛い。
着替えより先にシャワーだよな。
つまり彼には早急にお引取りいただかなくては。

「カノ」

さっき“マイ”と呼んだのとそっくり同じ響きだった。
こうなると文字の問題じゃなくてこの男の声のような気がしてしまう。

「なんですか」

「割と本気モードだから最後までしなかったんですけど」

「はぁ?」

「カノのこと欲しいと思ったからオイシイ状況でも我慢したの」

“忘れられたら口惜しいだろ”
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