女の隙間、男の作為
「知らないよそんなこと」

「じゃぁコレを機会に知っておいて」

なにを、とは
言わずもがな。

彼は再びあたしとの距離を30cmにまで詰めた。
上半身裸の男と下半身はショーツしか身につけていない女。
こんな時でも松岡からは柑橘系の匂いがする。
(たぶんあたしからは酒の臭いしかしないだろうに)

「俺はカノのこと気に入ってるの」

「なんで。あんた頭おかしいんじゃないの」

「人の告白を“頭おかしい”って失礼にも程があるでしょ」

「知るかそんなの。出会って一週間であたしのナニがどう気に入るのよ」

「見た目と仕事ぶり」

即答されて拍子抜けを食らう。

「フロアでいちばん美人なのは瑞帆だと思うけど」

「俺の好みの話でしょ。俺はカノの顔がストライクなの」

“ついでに小さいけど感度抜群の胸も俺好みです”

(背伸びして思い切り頭を殴ってやったことは言うまでもないので割愛させていただく)

化粧もとれた二日酔い明けのヒドイ女の顔を可愛いと描写する男のことなんて何一つ信用できないし、かといって何が狙いかを考えるのもめんどくさい。
とにかくあたしはシャワーを浴びて腹ごしらえをしたいのだ。


「あたしは彼氏を作るつもりはないし、職場の人間と仕事以外の交流をするつもりも一切ない。諦めてください」

以上!とばかりに相手の身体を押し返したつもりがその手を掴まれて形勢逆転してしまった。
というか距離がさらに10cm縮まった。
この状況にはまったく似つかわしくない爽やかな匂いが強まって状況を正しく分析できない。
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