女の隙間、男の作為
「ちゃんと理解してくれた?」

「な、なにを?」

“俺がカノのことすきだってこと”

キスされるのはないかというほど顔を近づけられて思わず目を瞑りそうになった自分の本能が恨めしい。
むしろ自分にもまだそんな本能が残っていたことにちょっとばかり驚いたくらいだ。

「まだ理解してないならこのままキスしちゃうけど」

「わーわーわー!わかりました。理解しました。
それはもう嫌というほど十分に申し分なく理解しましたので離してください!」

「まだ質問は残ってるよ」

「まだ何か?」

「あのシャツは元彼の忘れ物?」

またそこに話が戻るのかと一気に身体の力が抜けた。

「…弟の忘れ物。実家に帰ったときに持って帰ってあげようと思って4年くらい忘れてるけど」

「弟いるんだ」

「3つ年下。フロリダ在住。万年学生の岡野家のお荷物」

松岡はくつくつと笑い、あたしの答えが正解だったとわかった。
(いや別に嘘なんて吐いてないけど)

「じゃ、遠慮なくお借りします」

“また返しにくるね”

「来なくていいです。むしろそのまま捨ててくれて大丈夫です」

「マイコ」

「あんたね…!」

「って呼ばれると実はドキドキしちゃうとかある?」

「バカじゃないの。単純に名前が嫌いなだけです」

“もういい加減帰ってくださいよ”

なんで半裸の状態で男と口論しなくちゃいけないの。
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