女の隙間、男の作為
「痛」
相手が吐いた台詞はあたしにも共通するものだったけれど口にしたりはしない。
思い切り噛みついた以上、相手に傷を負わせたのと同時に自分の同じ場所にも同じものを追う。
痛みはあれど皹の入ったプライドよりは軽い代償だ。
意識のない身体を甚振られたと知ったとき以上に、触れただけのキスが腹立たしい。
「マイコ」
「マイコって呼ばないでってば」
離れた唇と繋がれたままの腕。
ずれたピンクベージュの口紅と滲む血色。
「なぁ、今、誰を思い浮かべたわけ?」
敵の次なる攻撃は150%想定外のものだった。
誰を?
「誰と比べて嘘なの?」
なにを言われているのか理解できずに、唇の痛みすら曖昧になった。
誰と比べて?
「嘘だと認めるの?」
「認めて欲しくないならそうするけど」
反吐が出そうだ。
正解と意味のない会話。
あたしが忌み嫌うもの。
なんでこんなことであたしが追い詰められたと感じなくちゃいけないの。
なんで泣きそうにならなくちゃいけないの。
なんで、あたしが。
「…」
「いいね。今まででいちばん素直な反応で」
“いいかげん、そうやって素直になればいいのに”
退路が絶たれたような気がした。