女の隙間、男の作為

「あんたいったいどこ目線で話してるのか知らないけど、二度と仕事以外で話しかけないで!」

我ながらなんてセンスのない捨て台詞。
でも他に選べる選択肢がなかったのだから仕方ない。

唇に感覚が戻ってきたと同時に怒りのスイッチもオンになる。
そして正常な思考回路も。

誰を思い浮かべた?

とても自分勝手な主張をした男を。

誰と比べて?

ロマンス小説では決して採用されない言葉ですきだと告げた男と。

“マイ”

そして3秒遅れで思い出す過去の遺産。

“マイには手をつけるなよ”

それは本当は誰への牽制だったのだろう。
出来のいい後輩へのもの?
それとも捨てるつもりの女への最後のワガママ?

「コウくんがわけわかんないこと言い残すからだよ」

これはあたしのワガママだ。
都合が悪くなるとこうやって存在しない人間になすりつける。

初夏の夜道を唇を擦って歩きながら、当事者ではない人間に全責任を転嫁した。
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