シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「そ、そうだ。く、久遠!!! 言霊で…」
僕の言葉に力がないのなら、せめて強制力を持つ久遠の言霊で…。
「紫堂玲。お前は…言霊というものを、都合良く解釈していないか?」
向けられたのは――
僕を責めるような瑠璃色の瞳。
罪人を裁く――
"断罪の執行人"としての表情を向けられたように思った。
「確かに言霊は…難解な心も操れるだろう。
しかしそれは…
あるべき理(ことわり)の流れを、
人為的に強制逆流させているということ。
それ故に…凶器。
それ故に…禁忌。
オレは――
せりには使いたくない」
「……!!!!」
ああ…
僕は何て浅はかなことを聞いたのか。
久遠が言霊を使って何とかできるのなら、
久遠はとっくにその力で芹霞を手に入れようとしているはずだ。
"約束の地(カナン)"から離れぬよう、芹霞を縛れたはずなんだ。
それをしないのは…
久遠が、"心"を大切にしているが為に。
だったら。
だったら他にどうすれば…。
僕の狼狽は止まらない。
「芹霞…」
櫂の声が漏れ聞こえた。
掠れて震えた…か細い声が。
「芹霞、俺……」
耐えきれないというように、櫂が芹霞の腕を掴もうとした時、芹霞はパシンとその手を払った。
「あたしはまだ、あんたが玲くんを見捨てたこと許していない」
それは…恨みをこめたような強い語調。
芹霞は判っていないんだ。
櫂が…僕を見捨てるのは当然の帰結。
裏切り者は僕で、僕がそこまでにあの櫂を追い詰めたのだから。
だけど…馬鹿だね…。
僕…
芹霞に庇(かば)われるのが、嬉しい…なんて。
僕のことを想ってくれているように錯覚するなんて。
芹霞の優しさを…勘違いしそうになる。
こんな時に。
こんな時なのに。
このまま、芹霞の記憶が戻る術がないのなら、
僕は芹霞を求め続けることが許された気になるなんて…
ああ、なんて酷い僕!!!