シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「芹霞、俺はただ…!!!」
「やっ、触らないで!!! 触らな…ううっ…」
更に腕を掴んだらしい櫂と、頭を抑えて蹲(うずくま)り始めた芹霞に…
「記憶は…残ってはいるんだな」
久遠の声が響いた。
芹霞を煌が片手で抱きとめている。
「拒絶こそが…過去の記憶だ」
櫂に向けていたのは紅紫色。
芹霞に記憶がなくても…
それでもその瞳は激情の色。
「つまり――
紫堂玲がせりの記憶を操作したのではなく、
せり自身が…紫堂櫂、
お前の記憶の忘却を望んでいるんだ」
「違う!!!」
僕は即座に否定した。
――紫堂櫂を愛してる!!!
「久遠はあの場に居なかったから簡単に言えるんだ!!!
あの時の芹霞が、どうして櫂を忘れることが!!!」
「壊れそう…ではなかったか、その時のせりは」
「え?」
「まるで硝子のように…紫堂櫂と共に割れて弾けようとはしていなかったか? 例えば、後を追いかけようとした、とか」
「それは…」
僕は肯定の意味で押し黙る。
確かにあの時の芹霞は、櫂と共に死のうとしていた。
それだけ芹霞の絶望は激しくて。
「せりの心は――
お前の…"紫堂櫂は存在していなかった"という言葉で救われたんだ。
もし紫堂櫂の存在が、せりの心にちらついていたならば。それをせりが自覚していたならば…。
きっと今頃、せりは廃人同然だったろう。
心が…壊れて」
思い出す。
あの時の芹霞。
僕を残しても…櫂の元に逝こうとした芹霞を。
そこまでの愛。
そこまでの絆。
芹霞の全ては櫂のものだと、悟った辛いあの瞬間。
裏返せばー―
そこまでの愛と絆が櫂の"死"で破滅してしまえば…
その反動は…心に来る。
死滅した櫂と共に…芹霞の心は壊れる。
――いやあああああ!!!
あの時。
芹霞の心は、櫂の死を許容して――
時間を止めてしまったんだ。
進みもせず、退きもせず。
そして――
心が膠着して、砕ける寸前。
――紫堂櫂は存在していなかった。
僕の…言葉によって、虚構の世界を作り上げてしまった。
…本能的な自己防衛が。
そういうこと…か?