シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


鳴り響くファンファーレが長い。


決勝戦にコマを進めたらしい。


恐らく僕には――

"負け"は認められないのだろう。



勝たねば此処から出ることが出来ない。


決勝戦は誰が出てくるのか。


毎度の大会常連は、既に僕が潰してきた。


何より由香ちゃんが出場するはずないから、楽勝だと思ったんだ。


だけど何だか身体の動きが鈍くなってきたような気がして、僕の力の糧となる電脳世界だから、回復結界でも施そうとして…ようやく気づいたんだ。



コード変換が上手くいかないことに。


僕の力が…吸い取られている?



何故?



そして気づいたんだ。


0と1に混ざる、第三の存在に。



それは実数にはなりえない「-1」。


虚数…"i"の存在があるのを。


その存在がある為に、僕が慣れている二進法の解読が出来なくなっている。


何故、虚数が?


確かに、実数を用いる物理や数学の世界では、説明つかない現象の説明に、虚数を用いて説明しようとする部分はあるけれど…0と1で構成された純粋な二進法たる電脳世界においては、虚数なんて必要なく。


それはあくまで"理論"上のものであり、此の"実践"の世界では異質な存在だった。


"理論"が真逆な"実践"世界に混ざることは本来あり得ないことで、本末転倒のもので。


白か黒かの確定世界が、不確定要素を含有したということは――つまり、電脳世界の存在の危機だ。


電脳世界の危機、異常…。



ああ、もしかして。


僕が東京で電気の力を操れなかったのは。

僕の作ったコンピュータで、おかしなスパムが増殖し、機能を止めたのは。


僕の把握出来ない、この虚数の存在ではなかったのか。
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