シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

久遠はまだ続ける。


「紫堂玲は、機械と人間の狭間に立てる特殊な人間だ。人間の心を理解し、電脳世界も理解できる。双方の世界の長所のみを繋ぐことが出来る…希有な存在ともいえる。

しかし彼の肉体は"人間"だ。人間が電脳世界に行けるということは…単純に考えて、電脳世界自体が、人間世界化していたというんじゃないか?」


変革、か。

電脳世界の異常…それは玲が再三訴えていた。


「け、けど…人間だって、電脳世界から見れば、0と1で…」


「由香。それは概念上のものだ。真実の構成ではない。真実なんて、誰もわからない。人間なんて、そんな単純なものではないだろうさ。単純ならオレだって…」


そして言葉を切ると、一瞬目を伏せ…そしてまた続けた。


「概念と真理を同一視するな。ジレンマに陥るぞ」


人間を…その醜さを、その生死を…嫌という程見続けてきた久遠には、"人間"というものをどのように捉えているのだろうか。


「そして。仮に電脳世界が人間世界に酷似した部分があったとするならば。…電脳世界にも起こっている可能性もある。複製(コピー)ではない、子供という異端の存在」


「スパム!!」


突如遠坂は俺を見て叫んだ。


「紫堂!! 操られて多分ボクが入れただろう、師匠のコンピュータに増殖した"スパム"!! あんなのがもしかして電脳世界に…」


途端に久遠が、薄く笑う。


「"増殖"、ね。電脳世界にはありえない"何か"が、増殖して…覆そうとしているのかもしれないな。それも由香が紫堂玲に連絡を取れない一因かも知れない」


俺は…ふと蛆を思い出してしまった。


増えて増えて"増殖"して…そして共食いを始めたあの蛆は。


やがて蚕という別の存在となり巨大となり…

横須賀港において、確かに別物の何かを生み出そうとしていた。


あれは一体なんだった?

あんなものがもしも…電脳世界で起こったら?


玲…。
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