シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「だけどまあ、紫堂玲の知能と機転があれば、まず危機は回避出来るだろう」
それはただ希望的観測にしか過ぎないけれど。
無事であると…思うことしかできない。
「究極論的に言えば、異種の存在には…機械の意思なんて判らない。世界を発展させたいというのがもし真実であるなら、何でそんなことを思うのかなんてオレに想像すらできない。
唯一理解できるとしたら紫堂玲ぐらいだろう。果たして紫堂玲が電脳世界に誘われたのは、"子作り"か"伝達者(メッセンジャー)"か、また違う意図があるのか」
遠坂が苦笑した。
「師匠が電脳世界の"子沢山パパ"にならないことだけを願うよ。ま、師匠は安易にそんなことする人じゃないけどさ、人間界だって正常な人間であれば、愛がなくても心がなくても…やることやれば子はできるし」
「由香。それは人間世界では"人間"以下…畜生扱いだ。"犬"だろう」
久遠が鼻でせせら笑う。
犬…。
犬…。
思い出すのは、俺のオレンジの犬。
今頃、どうしているだろう。
瘴気に戻ったろうか。
あいつの心、壊れていないだろうか。
「そういえばさ、紫堂。七不思議にも…"犬"出てきたね」
「犬? 七不思議?」
久遠が目を細めた。
「君は知らないか? 東京の七不思議のうち、犬の項目が2つ出てくる。1つは、神社仏閣の巫女さんが野犬に惨殺されたというもの、もう1つは…お地蔵さんの首が転がり…傍らに野犬が死んでいるということ。ボク達も聞いたよ。ワンワン煩い野犬と…得体の知れないものの鳴き声」
「得体の…しれない?」
「うん。"ぴぎゃーーー"って爆声が聞こえた。如月曰くエイリア「爆声?」
煌の意見は悉(ことごと)く無視されるらしい。
何だか…自信満々だった顔を思い出すと、哀れに思える。