シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「穢れを恐れて逃げることが出来る人間など…ウチからしてみれば、かなり幸せもんですわ」
声色もまた…温度を無くしていく。
まるで…怒りのように。
「一方的な不条理なもんに巻き込んで、いらないもんだと勝手に捨ておいて、突如いるもんだと呼び出される。
呼び出された処が、綺麗な処とは限らへん。
元制裁者(アリス)たるワンワンはんには、判るはずでんがな」
煌は…押し黙った。
「硝子の世界なんや、此の世は」
ぼそりと聖は呟いて。
「綺麗なもんと手を伸したら、直ぐ様砕け散る…。触れることすら難しい、そんな脆(もろ)い世界なんや…」
煌も…思う処があるのだろうか。
唇を噛んだ。
「愛しとる言うて報われるのは、奇跡なんや。どんなに言いたくとも、言えん事情がある奴もおる」
聖の目は、朱貴に向けられた。
「誰もが望んで簡単に奇跡が起るのなら、魔法なんて言葉は此の世にはあらへんわ。お節介やきの"魔法使い"などおるんやったら、とうに朱やんは"人並"に暮らしてま」
人並…の生活をしていないのか、朱貴は。
皇城翠も知らない朱貴の素性。
それは一体――?
眺め下ろす朱貴の唇が、再び動いた気がした。
"紫茉"
肉体がどんなに欲に塗れても、心は七瀬紫茉を求め続ける。
彼女は横に居るというのに…彼の想いは伝わらない。
だが滑稽などとは思えない。
愛する者が隣に居て、想いが伝わらない人間だって居る。
距離が問題ではない。
愛は尊いと誰かが言っていたけれど…
どの愛の形が正しいものなのか、私には判らないけれど。
朱貴の愛の在り方は…
強烈に私の心に刻み込まれた。