シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
宴に夢中になっている場の連中は、
飛び降りた私の姿に気づいていないようだった。
私は気配を殺し、慎重に場の中心に近づいていく。
噎せ返るような麝香の匂いと、動物の匂いに胸が悪くなる。
肉の悦びの声に…私の全身が総毛立つ。
朱貴に群がる全裸の男女。
そこには年寄りも幼い子供も居て、愕然とする。
一体…
どんな目的で此の場に迎えられた人間達なのだろう。
どういった理由で、選ばれたのだろう。
そろりそろりと静かに足を進ませようとした時、足先に軽く電撃を感じた。
地面に…何かの線が描かれている。
それは薄い線なれど…
地面に刻み込まれたというものよりは、何かが流れ込んできて輪郭を象ったような感じだ。
例えれば、今まで見えなかった透明な細いパイプに、色つき水が流れ込んで…初めてパイプの存在が判った時のような。
これは…結界の陣だろうか。
安易に近付く者を許さない。
さて…どうすればいいものか。
悍しい瘴気。
魔方陣が息づいている。
七瀬紫茉にこれが流れ込む予定だったのだとしたら、それを全て受容出来る七瀬紫茉は尋常ではないだろう。
そして一旦彼女に入ろうとしたものの流れを変え、自らの身体に注ぎ込んで調整出来るという朱貴だって、尋常ではない。
尋常ではない"北斗の巫女"を守るのが朱貴の役目だとすれば。
やはりそれが可能な朱貴の素性は気になる処だけれど。
声が聞こえる。
嬌声に交じり聞こえてくる声は…上岐妙?
詠唱はまだ続けられていたのか?
上岐妙も私には気づいていないようだったが、突如その顔を上げた。
これは――
上岐妙じゃない。
そう感じたのは、私の直感。
長い黒髪、切られた前髪。
高慢な表情を創り出すその目は――
…片方が碧眼。
オッドアイ。
まさか…。
今居るこの女は――
黄幡一縷とでも!!?