ショコラ~愛することが出来ない女~
その晩、私を腕に抱いたまま、彼が耳元で呟いた。
私の事をまだ好きだと。
元に戻りたいと願っていると。
嬉しくてすぐにでも元の鞘に戻りたかった。
だけど、母が死んだばかりなのにそんな浮ついたことをするのは気が引ける。
常識的じゃない。
昔の私だったらそんな事も気にしなかったんだろうけど、歳をとって少し弱気になっていたのかも知れない。
少なくとも百か日が終わるまでは、喪に服していようとそう思って答えを保留にした。
詩子にはこんな不安定な関係を伝えるのは嫌だから内緒にして欲しい、と頼むと彼は了承した。
秘密の関係というものは盛り上がる。
彼が私の家にやってきたり、私が夜も更けてから店の2階に行ったり。
内緒にしている申し訳なさを感じれば感じるほど興奮した。
2人だけの世界は、まさに私がずっと望んで来たもので。
甘い美酒を頂くような気持で、その関係に酔いしれた。