愛の花ひらり
 とにかく、この『スケジュールとその他』の中身を把握しておかなければならない。速読も暗記も得意な要は、ファイルの表紙を開くと、数十枚にものぼる薄っぺらい紙をペラペラと捲り始めた。
 『スケジュール』の方は、敦は確かにやり手の社長のようだ。休憩する時間がない程に秒間隔でぎっしりと予定が詰め込まれている。
 それも、勤務時間だけではなく、勤務外時間の箇所にも秒間隔の予定が書かれていた。
「あの人、いつ寝てるんだろう?」
 いつ寝ている? と、要も他人から聞かれたとすれば返答に迷うかもしれない。何故なら、要もまた、この会社の勤務時間が終わった後にバイトが待ち受けているからだ。
 今月からはこの会社の給料が入る為、多少は楽にはなるだろうが、それまではまだかなりの極貧生活をしている。だから、要は夜のコンビニや配達事務所などのアルバイトを続けているのであった。
 お陰で、目の下にはかなりのくまができており、薬局で一番安い化粧品を買って、顔色の悪さをカバーしている。
「まっ……忙しいって言っても意味が違うか……」
 要はフーッと溜息を吐きながら、『その他』と書かれた中表紙をペラリと捲った。
「……」
 言葉が出ない。
「何、これ……どういう事?」
 一瞬、その紙の上に何が書かれているのか理解できなくなる要の両眼は、ゆっくりと大きく見開いていった。
「な、何……何なのよぉ! 夜のバイトができないじゃん!」
 優子は質問があれば聞くと言っていた。
 聞きたい事は山ほどあるし、文句も言いたい。
 そして、あの敦の笑み。あれはこういう意味だったのかと怒りさえ込み上げてくる。
 要は開いていたそのファイルを勢いよく閉じると、その上に顔をうっつぷしていた――。
< 24 / 41 >

この作品をシェア

pagetop