愛の花ひらり

「と、当麻さん！　どうされたのですか？」
　優子が敦を追い越して、要の方に駆け寄って行くと、要は優子を無視して敦の方にずかずかと歩み寄って行った。
「ちょっと……これ、どういう事？」
「どういう事って、何が？」
　手に持っていたあのファイルを敦の前に付き出す要。その手は怒りの為か、小刻みに震えを起こしていた。
「朝、社長の家まで迎えに行き、起こす。家の中の掃除。昼は分かるわ。勤務時間だものね？　昼食の用意とかお茶の事とかも理解できた。ただ、何でこの私が、朝食も作って夜にはあんたを家に送り届けて夕食作って、さっきも言った掃除もしなきゃなんないのよ！？」
「まあ、掃除や食事の面は違うだろうけど、社長秘書や議員秘書という者は、必ず送迎をするんだぜ？」
　要の文句の言葉にもシレッとした態度を見せる敦。要の背後まで歩み寄って来た優子が優しく言葉を掛けてきた。
「あの、質問は私が受けますわ。だから、今は怒りをお静めになって……」
「小野峰さんもこれをしていたんですか？」
「えっ……？」
「社長秘書である小野峰さんもこのような事をされていたんですか？」
「わ、私は……その……」
　言葉に詰まる優子の顔を見て、要は納得をした。
　彼女はこのような雑用は任されていないのだ。
　今夜だってバイトがあったが、二人の帰りが遅かった為に配達事務所を急遽休みにしてもらった。
　今はネット社会になっており、パソコンで買い物をする客が増えている為か、配達業務もかなり多忙を極めている。そのような時にいきなり休みを取ってしまったのだ。
　もう、あそこもクビかな――？
　と、連絡をした後に情けない溜息を吐いていたのを覚えている。
　要は文句を言った後、呆然と立ち尽くしていると、要の顔を見た優子が心配そうに声を掛けてきた。