描かれた夏風

望むこと

 水瀬君が言うが、部屋が狭いわけではない。

 面積だけなら普通のホームルーム教室の二倍はある、広い部屋だった。

 ただ、中には絵を保存するラックがところ狭しと詰め込まれている。

「へえ……絵を置いておくときってこういうラックを使うんだな。それにしてもすごい枚数」

「うん。確かこの辺りに置いてあるのがね、過去に月間賞を取った生徒の作品で……芸術科の歴史みたいなものなんだよ」

 私は去年の月間賞の作品が詰まったラックを引き出した。

 目当ての絵を探して、上から順に一枚ずつ見ていく。

「あれ? 名前プレートをどうにかして調達するんじゃなかったのか」

 水瀬君が怪訝そうに言った。

「あ、うん。名前じゃなくて絵を差し替えてほしいの。いいかな?」

「それはまあ、何でもいいけど……」

 数枚めくって、私は探していた絵を見つける。

 両手でそっと持つと、真正面から眺めてみた。

「その絵と、飾られていた友絵さんの絵を交換?」

「うん。お願い」

 私は絵を差し出して、深々と頭を下げる。
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