描かれた夏風

一人じゃない

「あら、友絵ちゃんじゃない。最近なんだか上機嫌ね」

 私が廊下を歩いていると、不意に声がかけられた。

 アスカ先輩だ。

 教室移動の最中らしく、そばには数人の友達がいる。

 それぞれがキツく眉をしかめて私を睨みつけていた。

「どうしたの? 何かいいことでもあったの?」

「は、はい……!」

「そう、じゃあまたね」

 ひらひらと手を振って、アスカ先輩は爽やかに去っていく。

 私はため息をぐっとこらえた。

 偵察されてる、そんな気がしてならない。

(考えすぎかな……)

 私は一人きりで教室に戻った。

 画材をロッカーにしまうと、お昼の準備に取りかかる。

 夏の文化祭。
 秋の芸術展。

 みんなが私のことを敵視していた。でもそれはきっと仕方のないことだ。

 悪口を言われるたびに、胸のあちこちがチクチクと傷むけれど。

 教室の中では苦しくて息が吸いにくいけれど。

 背中に突き刺さる悪意に満ちた視線なんて、気にしてはならない。

 怯えていた同級生の噂話も、以前よりはどうでもいいように感じられていた。
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