描かれた夏風
 一人じゃないというだけで、少しずつ強くなれている気がする。

 その日、私はいつものように裏庭の桜の下に腰掛けた。

 智先輩はすやすやと寝入っている。膝にちょこんと載ったルカも、とても眠たそうだった。

 スケッチブックを開くと、真っ白なページが日の光を反射する。

 私は文化祭の優秀作品を目指そうと考えていた。

 秋の芸術展の三作品にも、入れるものなら入ってやる。

 私は決意と共に拳をギュッと握りしめた。

「……おはよー」

 まぶたがぴくりと震えたかと思うと、智先輩は眠たそうな表情をこちらに向けてくる。

「今はお昼ですけど、おはようございます。智先輩、眠たそうですね」

 智先輩は桜にもたれかかっていた体を起こした。

 驚いたルカが膝の上からピョンと飛び退く。

「昨日は仕事でさ、眠い眠い。体力的にもキツくてさー。実は二限目からここにいるんだよ」

 智先輩が目をこすって言った。

 三年生として受験を控えているのに大変だ。

 うちの高校ではバイトは許可されていないから、何か家庭の事情があるのだろう。
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