描かれた夏風

上級生

 そう思って引き返そうとしたら、肩に強い衝撃がはしった。

「オイ、余所見してんじゃねーぞ」

 ぶつかった相手に野太い声で怒鳴られて、私はとっさに頭を下げた。

「ご、ごめんなさいっ!」

 校章や上履きの色からか、それとも私の怯えっぷりからか。

 私が下級生だと悟った相手は、ニヤリと険悪な笑みを浮かべる。

 体格が良い、でも品が悪い男子生徒だ。

 どんな有名人に似ているかと訊かれれば、青いネコ型ロボットのアニメに出てくるイジメっ子だと即答できる。

 廊下を行く先輩たちが、ちらちらと憐れむような視線を向けてくるのがわかった。

「ごめんで済んだら警察いらねーっての。すげー痛いんだけど、どうしてくれんだよ!」

「え? 保健室に案内しましょうかっ?」

 慌てて言ったものの、軽くぶつかったくらいで怪我するはずもない。

 第一、相手の方が二年長くこの学校に通っているのだ。

 保健室の場所を知らないわけもない。

「お前、舐めてんのか? 本気でふざけんなよ」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 とにかく恐ろしくて、私は新入社員のような勢いでペコペコと頭を下げた。
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