描かれた夏風
(い、今、彼女って言った?)
混乱を極める私をよそに、智先輩は脅し文句を継ぐ。
「僕もこの子に危害が及ぶようなら真剣にならざるをえないから……早く行った方が賢明だよ?」
「何だと!」
「松本君もせっかくの推薦内定、不祥事起こして取り消されたら大変だしね」
「すまんかった! じゃあまたな!」
内定取り消しという単語を耳にして、松川君は慌てふためき逃げ出した。
どうも頭の回転が遅いようで、気の利いた捨て台詞すら残せないらしい。
智先輩は松川君が去っていく背中を見つめて、独り言のようにつぶやいた。
「――彼、焦ってイラついているみたいだね。噂ではさ、本当に行きたい志望校を諦めたんだって」
松川君は成績が落ちて志望校に合格できるか怪しかったらしい。
だから部活の実績を利用して、推薦で安全に進路を決めたそうだ。
「そう、なんですか。妥協……したんですね」
私の相槌に、智先輩は薄く笑った。
「うん。でも自分の選択に後悔しちゃダメだね。ましてや自分自身にイラついて後輩に八つ当たりしてるようじゃ、駄目だ」
意志を貫くも貫かないも自由だと思うけどね、と智先輩は言った。
混乱を極める私をよそに、智先輩は脅し文句を継ぐ。
「僕もこの子に危害が及ぶようなら真剣にならざるをえないから……早く行った方が賢明だよ?」
「何だと!」
「松本君もせっかくの推薦内定、不祥事起こして取り消されたら大変だしね」
「すまんかった! じゃあまたな!」
内定取り消しという単語を耳にして、松川君は慌てふためき逃げ出した。
どうも頭の回転が遅いようで、気の利いた捨て台詞すら残せないらしい。
智先輩は松川君が去っていく背中を見つめて、独り言のようにつぶやいた。
「――彼、焦ってイラついているみたいだね。噂ではさ、本当に行きたい志望校を諦めたんだって」
松川君は成績が落ちて志望校に合格できるか怪しかったらしい。
だから部活の実績を利用して、推薦で安全に進路を決めたそうだ。
「そう、なんですか。妥協……したんですね」
私の相槌に、智先輩は薄く笑った。
「うん。でも自分の選択に後悔しちゃダメだね。ましてや自分自身にイラついて後輩に八つ当たりしてるようじゃ、駄目だ」
意志を貫くも貫かないも自由だと思うけどね、と智先輩は言った。