描かれた夏風

一生分の勇気

 私はその言葉をかみしめる。

(後悔、か)

 後悔したくなかった。

 だから智先輩に会いに来た。

 それなのに、どうしてだろう。

 いざ顔を合わせてみると、上手く言葉を紡げない自分に苛立つ。

「大丈夫だった?」

 智先輩が、初めて私の方を真っ直ぐに見据えた。

 緊張感が私の体を包み込む。

 心臓の音が耳にうるさかった。

「は、はい。ありがとうございますっ!」

 心の底から深々と感謝の礼をする。

 智先輩にもアスカ先輩にも、私は助けてもらってばっかりだ。

 大切な人たちが周りからいなくなったら、きっと私は私のままでいられない。

「そっか。何はともあれ、西口さんが無事でよかったよ」

 智先輩が笑顔で口にした言葉に、私は自分の耳を疑った。

 ――西口さん。

 妙によそよそしい呼び名に私は戸惑う。

「さっきは口から出任せ言ってごめん。松本君は硬派だし噂話とか嫌いなタイプだから、広まりはしないと思うけど……」

「あ、はい。気にしてません。でも智先輩、とても平然と嘘がつけるんですね」

 ――彼女という単語だけであんなにドキドキしていた私とは大違いだ。
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