描かれた夏風
 アスカはうつむいたまま、怒ったような口調で言った。

「……嫉妬しているように見えるの?」

 何と答えたものだろうか。

 どういう答えを相手が望んでいるのか分からないから、素直な感想を伝えた。

「見えるよ。最近、アスカちゃんはどうも情緒不安定に見える」

「……誰が」

 否定しようとして、アスカは途中で口をつぐんだ。

 思い当たる節があるらしい。

 気まずい沈黙が、痛いくらいに教えてくれた。

 ――図星だ。

 アスカは嫉妬している。

 思い返してみればここ最近、アスカの態度は穏やかではなかった。

 視線が睨むように険しく、うろうろ宙をさまよっている。

「……誰に?」

 アスカは不意に顔を上げて、質問を変えた。

「私が、『誰に』向かって嫉妬しているように見えるの?」

「えっと……僕とか。可愛い後輩を取られたみたいで面白くないとか?」

「――他には!」

 返す言葉を探して、視線を宙にさまよわせる。

 思いついたその名を口にすると、アスカの表情は一瞬にして強張った。

 カッと顔を怒りに染めて、アスカは低くした声を出す。

「いい加減なこと言わないでよ。そんなわけないじゃない」
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