描かれた夏風

挽回へ

「友絵……最近少し頑張りすぎじゃない? 体壊さないようにね」

 心配そうに尋ねてくる母に、私は笑顔で応じる。

「大丈夫、大丈夫。行ってきまーす!」

 私はゼロから新たな作品を書き始めていた。

 誰よりも早く登校して、授業が始まる前に絵の制作を進める。

 放課後は校舎が閉まるギリギリまで残っていた。

 誰が何と言おうと、文化祭の代表選考会に間に合わせる。

 その一心だ。

 無我夢中、とはこういうことを言うのだと思う。

 みんなから無理だと言われた。

 たった二週間で間に合うはずがない。

 雑に仕上げた作品を出しても恥をかくだけだ。

 文化祭の代表は諦めろ。

(無理だなんて決めつけないで。私は、やるんだから)

 私は目の前のキャンバスをじっと見据える。

 私の一週間が詰まった絵だ。

 他のすべてを捨てて、持てる力のすべてを注ぎ込んだ。

 焦る心を抑えて、ゆっくりと筆を動かす。

 あと一週間で、間に合うかどうかは分からない。

 けれど間に合わせなくてはならないのだ。

 もし、もしも。

 この絵を書き上げることができたなら。
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