描かれた夏風
 もしも、私が文化祭の代表に選ばれたなら。

 そのとき、私は智先輩に言いたいことを言おうと思う。

「失礼します。先生、頼んでおいた絵の具の件なんですけど……」

 ある日、私は用があって先生の部屋を訪ねた。

 ガチャリと扉を開ければ、女生徒と先生が深刻そうに話している。

 ショートカットの女生徒、その後ろ姿には見覚えがあった。

「アスカ先輩、こんにちは」

 私は深々と頭を下げる。

 アスカ先輩は、ふいと目を逸らした。

(え……?)

 後ろの窓に、雨粒が何本もの線を描く。

 アスカ先輩の瞳は、今の雨雲みたいに曇っていた。

「ああ、西口! 隣の部屋の机の上にあるから、勝手に取って行ってくれ!」

 先生は焦ったような口調で大きな声を出して言う。

「は、はい」

 無視……された。

 心の底に暗雲が影を落とす。

 私はどうしていいか分からないまま用事を済ませた。

 部屋を出るときアスカ先輩に視線を送ったけれど、やはり応えはない。

(何を話していたんだろう?)

 他人に聞かれたくない話だったのだろうか。

 だとしたら、ひどく間が悪い。
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