描かれた夏風
 それにしても、アスカ先輩に無視されるなんて初めてだった。

(私……何か気に障ることしちゃったかな)

 とはいえ、アスカ先輩はちょっと気に障ったくらいで後輩を無視するような人じゃない。

 そんなことをぼんやりと考えていたら、向こう側から声をかけられた。

「友絵! どうしたの、ボーっとしてさ。今から帰るの?」

「真由!」

 私は顔をあげて友人に笑顔を向ける。

「ううん、ちょっと難波先生に用があったの。まだこれから絵を描く予定だけど」

 何気なく真由の後ろに視線をやった。

 背の高い男子生徒が、真由と私の会話が終わるのを待っている。

(え……?)

 立ちすくむ私に、真由が小さくささやいた。

「格好いい人でしょ。同じ中学出身だって子に紹介してもらったの」

「そ……そうなんだ」

 男子生徒――都築智先輩は、私の方を見て軽く会釈する。

 私もペコリと頭を下げた。

 まるで初めて会ったかのようだ。

「んじゃ。体を壊さない程度に頑張ってね、A組の星」

「その呼び方やめてよ……バイバイ」

 真由と別れて、私は大きく息を吐く。
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