描かれた夏風
 真由は私にはないものをたくさん持った子だ。

 くるくると変わる表情は、見ているだけで楽しい気分になる。

(智先輩は、真由のことが好きなのかな)

 活発に言葉を交わす二人を見ながら、私は考えた。

 智先輩の笑顔は、初めて会ったときよりも優しく見える。

 それは隣にいる真由の力……なのだろうか。

(もしかして、二人は付き合ってるのかな)

 だとしたら、私がここにいてはいけない気がする。

 ひどく居心地が悪く思えた。

「真由、私、帰るね……」

「え? ちょ、待ってよ。友絵!」

 私は二人に背を向けて走り出す。

 疲れているからだろうか、頭の中が熱かった。

 真由は智先輩の隣にいることを許されている。

 羨ましくて、悔しかった。

(駄目だな。混乱してる……)

 久しぶりに智先輩の笑顔を見られて嬉しい。

 でも、その笑顔は私ではなく真由に向けられていた。

 心の奥が痛い。

 痛くて痛くて仕方がない。

 家に帰ると、自室のベッドに倒れこんだ。

 目をつむれば、浮かんでくるのは智先輩と真由の姿だ。
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