描かれた夏風

揺れ動く夢

(誰……?)

 どこかで見たことがある気がする。

 友達、だろうか。

 これと言って特筆するようなところのない女の子だ。

『ルカ!』

 夢の中で、彼女の前に一人の男子生徒が現れた。

 耳を澄ませば、彼らの会話が聞こえてくる。

『見つかってよかったー。ありがとう』

『い、いえ、私は何もしてないです』

 柔らかい口調の男子生徒に、彼女は緊張しながら応えていた。

(ああ……私だ)

 理解がじんわりと意識に浸透していく。

 あの女の子は、数ヶ月前の私だ。

 夢の中で、私は私を見下ろしている。

 空に浮いているような、不思議な体験だった。

『ここ、フェンスに穴が空いているんだ。だから飛び出して引かれてたらと思うと、気が気じゃなかったよ』

 男子生徒の言葉を聞いて、落ちていくような感覚に襲われる。

(今、何て……?)

 深く考える間もなく、グルリと視界が反転した。

 場所は変わらないけれど、場面が変わっていく。

 よく晴れた日のお昼どき。

 男子生徒――智先輩は、桜の木にもたれかかって寝ていた。
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