描かれた夏風
『……じゃあ、また明日も来ますね』

 夢の中の私は、智先輩に声をかけて立ち上がる。

 そして少し離れたところにあるフェンスに目をとめた。

『あれ? 何だろう、これ』

 大きな木の板が、フェンスに立てかけてある。

 今の私には、それが何なのか理解できた。

 チャイムが鳴って、夢の中の私は立ち上がる。

『やば、急がなきゃ……!』

 焦った様子で教室棟の方へと走り始めた。

 ――木の板を、倒したままで。

(ああ、そっか……)

 木の板を倒さなければ、フェンスの穴からルカが抜け出すことはなかった。

 ルカは死なずにすんだ。

 今更になって気づくなんて、私はなんてバカなんだろう。

 ルカが死んだのは私のせいなのだ。

 智先輩にもルカにも、申し訳なくて仕方ない。

 ぼんやりと思った。後悔は、過ぎた後でするから後悔なのだと。

 今更わかっても、どうしようもない。

「友絵! 今日は学校に行く?」

「ん……行く」

 窓から差し込む朝日に瞳を開ける。

 季節外れの風邪は、意外に長引いた。

 二日連続で学校を休んだというのに、体は重いままだ。
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