ルージュはキスのあとで
『とにかくだ。京が選んでしまったのなら仕方がない』
『……』
『とにかく泣かせるなよ!?』
『……お言葉ですが、キッツイことや、意地悪なことを言われ続けているのは私の方ですけど?』
進くんのブラコン度はかなり高いらしい。
ここまで来ると、笑うしかない。
あはは、とカラ笑いをすると、ダメ押しのように進くんは口を開く。
『京のこと傷つけたら真美さんのこと許さないから』
『……』
『これ、マジで言っているからな、真美さん』
『……はい』
進くんの声は真剣だった。
私は、そんな進くんに真正面から答えたいと思い、返事をした。
からかいでもなく、冗談でもなく。
進くんは長谷部さんのことを、とても愛しているんだと思う。
そこは、まぁ……過剰なぐらいの兄弟愛だとしても……家族として、とても心配しているというのを肌で感じた。
素直に返事をした私に対して、進くんもやっと安心したのだろう。
いつもの口調に戻ってきた。
『これからだって京の隣にいるってことは、色々キツイことも出てくると思う。それでも京のことを大切にしてやって』
『進くん……』
『京ってね、結構粘着だから、きっと真美さんを離さないとは思うけど、一応ね。言っておきたかったんだ』
『……わかったよ、進くん』
深く頷きながらそう返事をする私を、進くんは嬉しそうに笑って言った。
『とにかく、うちの可愛い弟のこと、よろしく頼むよ!』
それだけ言うと、途切れた電話。
プープープーという電子音だけが響く。
進くんからの言葉は、激励として受け止めることにしよう。
ちょっとだけ強烈な愛情表現をする進くん。
人は見かけによらないとはいうけど、本当だなぁと思わず苦笑した。
私は通話ボタンをオフにしてから、子機を長谷部さんに渡した。
ずっと黙って私と進くんの電話のやりとりを見ていた長谷部さんは、とても心配そうだ。
長谷部さんには、進くんが発した言葉は聞こえていない。
だから余計に心配をしているのだろう。
そんな心配はいらないと伝えるように、私は長谷部さんに笑いかけた。