それでも君を


「彼のために何かしたいの。
ヤスくんとは楽しかったけどこんなこと思ったことなかった。お願い、もう終わりにしよ。ヤスくん以外でこんなに好きなの初めてなの。」


「‥そんなにそいつがいいんだな。
でももし俺がサキと別れてユリと結婚するって言ったらどうする?」


「え?」


そう言って彼はカバンの中から離婚届と婚姻届を取り出しテーブルの上に置いた。
両方ともにヤスくんのサインとハンコが押してあった。



「俺サキと離婚してユリと結婚するよ。」

「――‥何言ってるの。」


「それでもそいつを選ぶ?
収入もたぶん俺のが上だろうし俺のがほうがユリのこともよくわかってるつもりだけど。」


それからもヤスくんは結婚式はロンドンの教会にしようとかハネムーンは北欧に行こうとか子供は二人はほしいなとかずっと話し続けていた。

たぶん彼もまた怖いのだろう、私がいなくなるのが。前の私みたいに。
だけどそこに愛がないのは私にはわかった。



「ヤスくん、もうやめて。
私もヤスくんが好き。だけど彼のことを幸せにしたいの。彼のほうが好きなの。だからもうやめて。」


そう言って離婚届と婚姻届をきれいに折りたたんでヤスくんに返した。


「ユリは俺がいなくても平気なのか?」


私はゆっくりと頷いた。


「私にはもう大切な人が出来たから。
ヤスくんにもサキ先輩がいるでしょう。
だからヤスくんも平気だよ。サキ先輩のこともっと幸せにしてあげてね。
いままでありがとう。楽しかった。」


伝票を手に取るとヤスくんがおいと引き止めた。


「いつもご馳走してくれたから最後は私が払うね。じゃあバイバイ、高橋先輩。」



一度も振り返らずにカフェを後にした。
振り返って彼が泣いていても平然としていてもきっと哀しくなってしまうから。



家に着くとすぐにナオに電話をした。
1コールでナオは電話に出た。
いまからそっち行っていい?と言ってくれたから来てと答えた。



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