愛を教えて ―背徳の秘書―
香織の夢は小さなころから“お嫁さん”だった。

夫や子供のために食事を作り、家を綺麗にする、“かわいい奥さん”“ステキなママ”になりたい。

そんな願いから、結婚と同時に仕事を辞め、早く子供が欲しいと香織は口にした。


別れた夫も賛成していたはずなのに、離婚間際になって『本当は共働きがよかった』と言ったのである。


『似合いもしないのにフリフリのピンクのエプロンとかしてさぁ。少女趣味でまいったよ』


離婚が成立した翌日、自宅に残った荷物を取りに行った香織の目に、元夫と入籍一日目となる彼の妻が映った。

浮気相手は二十代前半の女性で、すでにお腹が目立つほどだ。

元夫は新妻に香織の悪口を吹き込みながら、『やっぱり嫁さんは若くてかわいい子がいいよ』そう言って笑った。


――この男性のどこがよくて結婚したのだろう?


香織は荷物を引き上げるのも忘れ、泣きながら立ち去ったことを思い出していた……。




「香織さん……どうしたんです?」


そんな声が聞こえ、香織は肩を揺さぶられた。

頭がぼんやりしている。どうやら、ベッドに寄りかかった状態で眠っていたらしい。

薄闇の中、なぜか目の前に瀬崎の顔があった。


(夢、かしら? まだ、夢をみているのよね。だって、瀬崎さんが私の名前を覚えているはずがないもの……)

 
瀬崎は繰り返し「香織さん」と名前を呼んだ。

すると、香織は我慢できないほど悲しい気持ちに囚われた。

別れた夫には若い妻がいて、好きだった彼にも新しい恋人がいる。そしてこの瀬崎にも“ミホ”という女性がいるのだ。

職場の人たちも香織のことを『近寄りがたい』と言っていた。

知り合った男性は、誰も香織を選んでくれない。

永遠にひとりぼっちのような気がして、彼女はポロポロと涙を流していた。



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