愛を教えて ―背徳の秘書―
「……香織さん……」


 泣きながら、倒れかかるように瀬崎にしがみつく。


「瀬崎さん、私、ひとりなんです。……お願いです。少し、このままでいてください」

「いや、ちょっと待って。それは、その」


瀬崎は彼らしくない慌てた声をあげた。


「そんなに嫌ですか? 私、あなたを襲ったりしませんから」

「そうじゃなくて……僕があなたを襲うかもしれない。だから」


予想外の答えに、香織の涙はピタリと止まった。


「あの、せ、瀬崎さん? 熱は……」

「まだ少しあるみたいです」

「あの、私を襲うとか、おっしゃいました?」

「言いました。すみません、だから熱があるんだと思います。――襲ってもいいですか?」


にわかに信じられない問いかけに、香織は「あ……はい」と答えていた。



瀬崎は本当に独身だろうか? 

何歳なのだろう? 

彼はどこに住んでいるのか?



キスされてベッドに引っ張り込まれながら、香織は様々な疑問を胸に浮かべていた。

吐息が熱い、情熱的というのではなくて、やはり熱があるようだ。ひょっとしたら、朦朧とした意識の中でこんな真似をしているのかもしれない。

朝になったら後悔するかも……。

そう思いながらも、香織はストップをかけることができずにいた。

一夜だけ、たった一度だけの恋でもいい。今だけ瀬崎を独占したい。愛されていると勘違いしたまま、抱かれてみたかった。



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