愛を教えて ―背徳の秘書―
(……ウォッカぐらい飲みたい気分なんだがな)


宗は自分を落ちつかせつつ、吐き捨てるように口にした。


「ああ、悪夢だね。勘弁してくれ」

「なあに? ひどいこと言うのね。ちょうど社長のトコと同級生になるわよ。ラッキーじゃない?」

「何がラッキーなんだ?」

「家族ぐるみのお付き合い、ってヤツかしら? すっかり奥様に骨抜きの社長だから、そういうのは大好きそうだもの」


朝美もよくわかっている。

卓巳は世間一般の評判とは違い、およそクールな人物ではなかった。ペアルックなど、宗には死んでもできないことを嬉々としてやっている。

家族に縁が薄い分、アットホームな付き合い方を好むタイプなのだろう。


「そういうのは、君は嫌いだろう?」

「必要なら好きになるわ」

「それは知らなかった。君にそこまでの結婚願望があったなんてね」

「母性本能が目覚めたのかも……ね」


朝美のひと言ひと言に、宗は眩暈を覚える。


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