フライングムーン
第十四章
しばらくして“もうここには来れないんだ”と彼は悲しい顔をして言った。
私は言葉が出てこなかった。
彼が来ない日々なんて想像が出来ない。
私は“どうして?”と彼に聞いた。
“また転校するんだ”と彼は言った。
子供の私達にはどうする事も出来ない状況だった。
その日、彼はいつもの笑顔を浮かべる事も楽しい話しをする事もなかった。
最後に彼は“君はもっともっとピアノを頑張って弾くんだよ”と言って右手を差し出した。
私は“元気でね”と差し出された彼の手と握手をした。
初めて彼に触れた。
彼は“じゃあね”と帰って行った。
私は笑顔で彼を見送った。
< 15 / 21 >

この作品をシェア

pagetop