ブルーブラック2
フリーになった百合香は、女性を接客中にも美咲と男性の会話を耳に入れていたのですぐにフォローに入った。
「そう。じゃあMで書いてみてもいいかな」
「畏まりました」
柔らかい笑顔で百合香はそう答えると、手に白袋をはめて引き出しから一本の光沢のある黒い万年筆を取り出す。
先程美咲が取り出してショーケースの上に直に置いてあった万年筆をそっと割れものを扱うようにして百合香が手にすると、革のペントレーにそれを移した。
「インクの色のご希望はありますか?」
「あー・・ブルーブラックで」
その要望にも笑顔で頷いて百合香は横にあったブルーブラックのインクボトルの蓋を開けた。
さらしを片手にペン先を一度水に浸すとそれを拭って、今度はゆっくりとペン先にインクを含ませる。
余計なインクをさらしで軽く抑えて両手でペンを持って男性へと預けた。
「ああ、結構太いなぁ」
「舶来品なので・・・ではFをお出ししましょうか?」
美咲にとって、この一連の接客の流れは何が何だかわからない。
MやFなんて暗号のような言葉も知る筈がない。
美咲はただひたすら百合香の横で、会話と百合香の手元だけに集中していた。