ブルーブラック2

百合香が抵抗できなくなったのがわかると、智は唇を離した。

閉じていた目を開けると、百合香は蕩けるような瞳で智を見つめる。


「気にしないようにしてたのに、百合香がしつこく笑うから」
「…やっぱり、碧の話、面白くないんですね?」
「――今日、聞いてただろ」
「え?」
「江川んとこにやるよりマシだ」


百合香はぽかんとしたあと、失笑する。


「あーあ。英太くん、前途多難ね」
「現実的に考えて、坂谷はあり得ないしな」
「まだまだ先の話ですけど。…でも、そうですね。坂谷さんには可愛い彼女サンもいますから」
「と、なると、英太の方が危ない」


どこまで本気で言っているものなのか。
しかし、百合香は『おそらく9割、本心だろう』と心で思って小さく笑う。


「まだ笑うか」
「ふふ…智さんらしい」


ガタッと百合香は席を立って言うと、キッチンへと入っていく。
そして、すぐに智の隣へ戻ってきた。


「?」


真横に立つ百合香を、智は不思議な顔をして見上げる。
すると、目の前にさっと何かを差し出された。


「私は、本命のひとつだけなんですけど。せめて智さんの“同率1位”になれますか?」


差し出している百合香の手には、碧と色違いの黄色のラッピング。
それがチョコレートで、『同率1位』とは碧が相手だと言うことがわかると、智はゆっくりそれを受け取って言う。


「何をいまさら」
「だって、最愛の娘が最大のライバルだもの」


溜め息混じりに冗談ぽく、百合香が言うと、智が百合香の首へと手を伸ばす。
そしてぐいっと引き寄せると、耳元で囁くように言った。


「単独1位だろう?」


もう何年も一緒にいて、何度目かのバレンタイン。
それでも百合香は、こんな瞬間に、あの初めてのキスの時のようなときめきが胸を駆け巡る。

どちらからともなく短いキスをして、二人で笑い合う。


「百合香が居るから、碧がいるんだ。ありがとう、愛してる」


臆面もなく、さらりとそんな言葉を受けると、百合香はますますドキドキとしてしまう。――夫相手に。


「…私も、愛してます」


こんな特別な日くらいしか、素直に言えない気持ち。
それを言って、百合香は智に抱きついた。


(碧、ごめんね。でも、碧もきっといつか――――)


そうして今回も平和にバレンタインが終わった。




*おわり*





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