ブルーブラック2
「じゃあ、少しだけ···」


百合香はそう言って満面の笑みで“桜”を受け取ると、智が用意してくれたメモ用紙にいくつか文字を書いてみる。


「どう?“神野さん”」
「―――すごく神秘的な色、というか。夜の空にも朝の空にも見える不思議な色合いですね。濃淡が面白い。」
「金山さんが喜ぶコメントだ」


2人が仲良く談笑しているところに、事務所に入ってくる人が一人いた。

休憩に入るために事務所を通ったその人物は、いつものように爪を眺めながら上手くものを避けて前に歩く。


ふと、その人物は智のデスクに目を留めた。



「あれ――――店長の万年筆···?」


昨日見事なまでにかわされた、万年筆を一人の社員に貸しているのを見た。
爪が食い込むように手を握りしめて、鋭い視線を送っているのは美咲だった。
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