弾かないピアノ
多分、君が何に酔ってるのか知りたいから、うちにおいでよ、みたいなことを言われたんだと思う。
そして彼の手が頬を包み込む。
小さいころ、お母さんにいいこいいこしてもらったような、幸福感と、
それなりに恋をして知った、淫靡なぬくもりがごっちゃになって、めまいがする。
唐突に思った。彼はもう答えを知っている。
「手を繋いでくれるなら……」
混乱しつつも、そこは譲れない。
すると彼は、ククッと喉を鳴らすようにして笑い、膝の上で握りしめられた私の手をとり、指を絡ませた。
