指に光るそれは
 ごつごつとした手に、華奢な銀の指輪は似合わないように思える。けれど、美香はそれから目を離すことができなかった。

 そっか――彼女、できたんだ。ひっそりと落胆のため息をついた。
 会社の先輩が煩いとか、男除けの指輪とか、遠回しなアプローチのつもりだったんだけど。

 彼には少しも通じていなかったみたいだ。

 見ないようにしても、何度も何度もそこに目が行ってしまう。
 会社で叱られて泣いていた時に、あの手が髪を撫でてくれたっけ。


「そうだ、手、出してみ?」


 右手を差し出すと、反対、と促される。


「これ、おまえの指輪」
「……」

 薬指にはめられたのは、忠之と同じ指輪だった。
 
 それともう一つ。


「こっちのは、もう使うなよ? これ持って、店に行くのすごく恥ずかしかったんだからな!」
「落としたんじゃなくてあんたが持ってたの……」


 カウンターに転がされたのは、美香が自分で買った指輪だった。
 
 忠之が手を伸ばして、指輪を重ねる。
 
 そこに現れたのは、二つ重ねて初めて見える今日の日付。


「今日から、よろしく」


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