悪い背中。
 
「ダメですって。淳子さんがよくても俺が困ります」

「ん? …なんで?」


すでにワイシャツに袖を通している彼のネクタイをこちらに引き、下着姿の上半身で抱きつく。

すると彼は、背中に回した私の腕を器用にほどきながら、本当に困った顔で情けなく笑う。


「…ねえ、淳子さんさぁ。俺に本気で会社に遅刻する度胸があるか試すの、いい加減やめてもらえません? 俺にはありません、って言いませんでしたっけ」

「あら、聞いてないわよ?」

「…。じゃあ、こっちはもう仕事モードなのに、朝っぱらからガンガン刺激してくんの。それなら心当たりありますよね?」


いい加減、彼が可哀想になってきた私は「まぁ、ちょっとはね」なんて言いながら起き上がり、あらかじめ拾い集めてくれていた服に体を通し始めた。

ちらりと彼を窺い見ると、やはり困った顔で情けなく笑っていた。
 

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