いきなり王子様
私の声に、井上社長は眉を寄せて
「あ、美散と、竜也の間に、何かあると思ってるのか?」
探るような声で私に問いかける。
そして小さくため息を吐くと、いつの間にか私の隣の席に腰かけて体を寄せてきた。
何だか居心地が悪いけれど、それ以上に井上社長が話そうとしている言葉が気になって身動きが取れない。
美散さんと竜也に一体何があったんだろう。
それは恋愛のあれやこれやなのかと、不安も溢れる。
そうではないにしても、二人の間には誰にも入る事ができない絆があることは確かだ。
そんな私の心細い気持ちを感じ取ったのか、井上社長は私に穏やかな視線を向けながら話し始めた。
「美散と竜也は、お互いにお互いを大切に思っているし、一生それは続くと思うけど、これまで惚れた腫れたで気持ちを動かしたことはないから安心していいぞ」
「は、はあ……」
「まあ、あの二人はお互いの心の特別な場所に、お互いが存在してるんだけどな」
井上社長が放っていた、この部屋に入ってきた時の傲慢で強気な様子は影をひそめて、何かを耐えているような、儚さすら見えてきた。
そんな井上社長の様子を見ていると、私も苦しくなってきて、思わず。
「社長、ここにシワ寄ってます」
人差し指で、井上社長の眉間にそっと触れた。
「は?……ああ、これか。社長と呼ばれるようになってシワもため息も増えたんだ。気にするな」
井上社長は、ははっと笑いながら、私の指をそっと払った。
「社長に、なりたくはなかったんですか?」
ふと思いついた言葉をそのまま口にすると、井上社長は私をじっと見ながら。
「ああ。なりたくなんか、なかったね」
苦々しく呟いた。
「父親があれほどのバカじゃなかったら、俺は社長になんか就かなかったし、美散だって家から飛び出すこともなかった」
吐き捨てるような言葉には諦めと悪意も感じられて、私は一瞬身を引いた。
そんな私の様子にくすりと笑った井上社長は。
「竜也のオンナじゃなかったら、俺がここで抱きたいくらい、いいオンナだな」