いきなり王子様
突然の言葉に驚いた私は、何も答えることができずに、じっと見つめ返したまま視線すら動かせない。
まるで時が止まったような空気の中、緊張感だけが大きくなって、呼吸することすら息苦しく思えた。
そんな状態に、井上社長は小さく笑い声をあげると。
「あれほど自分の欲しい物を諦めることが得意な竜也が、
『絶対俺のものにする』って言うほどのオンナだもんな。
美散のことなんて気にしないで、自信を持っていいと思うぞ」
私の頭をくしゃり。
優しく撫でてくれた。
しれっとした口元からは、ほんの少し前まで浮かべていた苦しげな表情はすっかりと消されて、最初の印象通り、飄々とした余裕ありありの雰囲気が漂っている。
「で、美散の事だけど。俺たちの親父が無理矢理、竜也と結婚させようとしていたんだ」
「はあ?結婚?」
「そう。結婚。突然金持ちになって、なんでも思い通りになるとでも思ったバカな親父が、竜也との家の繋がりが欲しくて、結婚させようとしたんだよ」
「家の繋がり……」
「竜也の、っていうより竜也の姉さんの旦那さんって言った方が正確だな。
幾つもの会社を経営しているグループのトップだからな」
「旦那様って、璃乃ちゃんのお父さん」
井上社長は、小さく首を傾げた。
「あ?璃乃ちゃんの事、知ってるんだ?もしかして、もうお姉さん夫婦に挨拶に行ったとか?」
からかうような声に、慌てて首を横にふった。
確かに竜也のお姉さんのお宅に行ったけれど、それは挨拶なんてものではなくて単なる璃乃ちゃんとお留守番をするためだ。
「ふーん。まあいいけど。竜也がお姉さんの所に連れて行くくらいだから、やっぱり本気なんだな」
それに関しては、どう答えていいのやら。
竜也と付き合いだして日が浅すぎて、判断しづらいけれど、彼が遊びで女の子と付き合うことはしないと、それだけはわかる。
同期としてのこれまでの付き合いを振り返って、人を裏切るような人ではないとわかるから、私と竜也のこの急展開を戸惑いながらも受け入れているのかもしれない。