いきなり王子様
「その通り、大儲け、だな。そのおかげで親父は工場にも顔を出さず、ひたすら株価の動きに意識を向けるだけの投資家ってやつになった」
「投資家」
その言葉に何か、ひっかかった。
投資家さんとの繋がりがあるIRという仕事に就いているから反応したのか。
とはいっても、その言葉に触れる機会ならこれまで何度もあったけれど、こんなに気になる事なんて今までなかった。
どうしたんだろう。
妙に気になるその言葉だけど、井上社長の言葉は淡々と続き、意識をそちらに向けた。
「株式で儲けたお金で、どんどん工場を増やしていった親父は、工場で働くよりも数字の中で儲ける事だけに夢中になって。
そのうち、その金に物を言わせて財界のお偉いさんともお近づきになりやがったんだ。
その一人が、竜也のお姉さんの旦那さんだ」
「え?あ、あの……璃乃ちゃんのお父さん……」
財界のお偉いさん?
という言葉がしっくりくるかと言えば……くる。
璃乃ちゃんの病気を通じて知り合って、たまたま会う時にはいつも璃乃ちゃんが間にいたせいか、旦那さんのプロフィールはよくわからないままだった。
それでも、いつも品よく、璃乃ちゃんへの深い愛情を見せていた旦那さん。
というよりも璃乃ちゃんのお父さん。
「槙尾駿二。槙尾グループの総帥だ。知ってるだろ?」
「し、知ってます」
知ってますとも。
槙尾グループと言えば、衣食住に関する全ての分野に進出し、幾つもの会社を経営している国内有数のグループ。
確か、ここ2・3年で社長が交代したはずだ。
先代の社長さんが病気で入院し、息子さんが跡を継いだと、聞いているけれど。
「じゃ、璃乃ちゃんのお父さんが、今の社長さん」
そんな私の問いに、小さく頷いた井上社長は。
「槙尾グループとの縁を強力なものにして、工場からいつの間にかそこそこ大きな会社へと変貌を遂げていた自分の会社に箔をつけたいと企んだ親父は、槙尾グループ社長の義弟である竜也と自分の娘である美散を結婚させようとしたんだ」