いきなり王子様
* * *
慣れているとはいえ、静かな夜を一人で過ごす楽しみを見出す事は難しい。
小さな頃から両親と兄貴二人から甘やかされて育ち、見た目の良さから周囲からの視線を意識しながら生きてきた私にとって、一人ぼっちの時間というものにはなかなか慣れずにいた。
仕事を終えて家に帰り、週末ごとに準備している保存食を温めて食べ。
お風呂に入れば後は寝るだけ。
元来綺麗好きで、家事に長けているせいか、部屋中をくまなく掃除することも多い。
夜の遅い時間に掃除機をかけるのは気がひけるので、拭き掃除に限定しているけれど、いいストレス発散になる。
意味なく野菜スープをことこと煮込んでみたり、本棚に並べてある本の並び順を変えることもしばしば。
今日も今日で、会社から帰ってきてからずっと動き続けている。
「これで、最後か」
アイロンをひたすらかけ続けていた私は、最後の一枚となったハンカチを広げて小さくため息をついた。
パステルピンクのハンカチには、レースの縁取りがあってお気に入りの一枚だ。
確か、兄さんがホワイトデーに用意してくれたもの。
「あーあ。終わっちゃった」
アイロンが終わったハンカチやブラウスを丁寧に畳み終えて、さて、次は何をしようかと考える。
何かをしていなければ、井上社長から聞かされた重い事実に体中が覆われてしまう。
ちゃんと向き合って竜也と一緒にいようと、その気持ちは変わらないけれど、それでも。
「考えるのは、明日にしよう」
時計はようやく夜の10時を指していて、そろそろ寝てもいい時間だ。
ベッドに入って、そのまますぐに眠れるかどうかはわからないけれど、とにかく寝ようかな。
読みかけの本を読んでもきっと、頭に入らないだろうし。
何も考えずに、ただひたすら何かをして気を紛らわしたい時って今までどうしていたっけ?
振り返ってみても、妙案は浮かばず、アイロンとアイロン台を手早く片づけて戸締りの確認。
とにかく、寝よう。