いきなり王子様
竜也からのメールは。
『指輪のサイズ、教えろ。もちろん左手薬指。
誕生日プレゼントにしようと思ったけど、いっそエンゲージリング?』
簡潔な言葉の羅列で、すぐに読み終わったけれど、すぐにはそれを理解できなくて、『は?』と見入るようにスマホを睨み。
「サイズは、えっと。8号だっけ。しばらく必要なかったから変わったかも」
竜也のメールの真意って一体、何?
突然指輪とかエンゲージリングとか、これまで私に縁のなかった言葉をぶつけられて、こんな時、どんな対応を?どきどき落ち着かない。
恋愛経験が少ない私は、これまで恋人から指輪をもらったことなんてなくて、友達が幸せそうに指輪を輝かせている様子を見て、切なさを覚えてばかりだった。
その切なさは、決して羨ましいと思う気持ちからきているものではなくて、羨ましいと思えない自分への切なさ。
これまで恋人がいなかったわけではないけれど、指輪をもらった経験はゼロ。
誕生日やクリスマスの定番プレゼントの指輪、それをもらってしまうと、私自身を恋人に管理されるような窮屈な気持ちもあって。
『プレゼントはおいしい物をごちそうしてくれればそれで十分』
形が残らないものを恋人にリクエストして、どこか後ろめたさも感じるそんな気持ちをごまかしていた。
恋人を嫌いだった訳ではないし、体を重ねて愛情を確かめたことだってあるけれど、未来へとつながるきっかけを作りたくないと思っていた。
そういえば、『愛してるよ』と言われても、私は曖昧に笑って『私も、好き』としか答えられなかった。
恋人と同じレベルでの好意を持つ事ができないジレンマを感じながらの付き合い。
大切にされながらも、どこか居心地の悪さを感じていた。
その居心地の悪さは相手への申し訳なさにも通じて、いつしか二人でいるとぎこちない空気が漂い始めて。
毎回同じように
『他に好きな女ができた』
そんなことを言われて振られていた。
短期間の付き合いで、煮え切らない私の態度。
振られても仕方がないと、何のためらいもなくその言葉を受け入れては更に相手を傷つけていた。
そんな私が指輪を貰う機会を手放していたのは、自分の意思なのかもしれない。
指輪という、小さくて重すぎる枷。
恋人に取り込まれて自由を奪われるイメージしか持てなかった指輪。